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音楽は耳だけで聴くものではない。エヴェリン・グレニーが「聴き方」について語る(How to truly listen)

みなさんは聴覚障害を持つ音楽家たちをご存知でしょうか?

かの有名なベートーヴェンも難聴を患っていましたが、後世に残る偉大な音楽家とされています

現代にも、聴覚障害を持ちながらもプロのパーカッショニストとして活躍する音楽家、エヴェリン・グレニー氏
彼女のTEDでの講演は素晴らしく、音楽の『聴き方』について考えさせられる内容でした

この講演でグレニー氏は実際の演奏を交えながら音楽の『聴き方』について語っています

音楽は楽譜をなぞることではなく聴くことである

楽譜はとても親切で、音符や速度、強弱だけでなくドラムのどこを叩いて、スティックをどのように使うかまで書いてあります

しかし、音楽家の仕事とは楽譜を基にして、譜面にないことを解釈をすることだとグレニー氏は語ります

このことは人を見る時と同じことが言えます

例えばピンクの服を着た女性がテディベアを抱えているのを見て、この人は何をする人だろうと考えることはだけでは本当にその人を理解したとは言えませんよね

その人の見た目だけではわからない、性格や考えなどを知ることで、本当の意味でその人のことを知ったと言えるのです

音楽も楽譜から基本を理解して、その上で弾き方を考えますが、それでは不十分です

まず大切なのは聴くことー自分自身の体に耳を傾けることです

例えば、強くスティックを握ってドラムを打つと、腕からドラムの振動が伝わってきますが、楽器やスティックとの一体感がありません
しかし、力を抜いて手や腕を支えとして使うと、力を使わなくてももっと大きな音を出すことができ、スティックやドラムとの一体感があります

そうやって、楽器を知ることには時間が必要です
楽譜を理解するだけではなく、聴いて、自分自身で解釈するのです

12歳の時に学んだ「音楽は全身で聴くもの」

グレニー氏は彼女が打楽器を始めた12歳の時、音楽とのレッスンでの経験について語りました

先生は聴覚障害者である彼女に対して「あなたはどうやって音楽を聴くの?」と困りながら質問しました
彼女は「私は耳も通して聴きますが、それ以外にも手や腕、頬骨、頭、おなか、胸、脚でもー全身で聴きます」と答えました

それから、毎回のレッスンはドラムのチューニングから始まりました
ごく狭い音程から始まり、少しずつ体や手を開きながら振動が伝わってくるようにすると、 わずかな音の違いを指で感じることができます

グレニー氏は耳でなく、体を開いて音を感じるようにしていたと言います

音とより広く一体になろうとしたのです

耳というのは、部屋や音の増幅、楽器の質、スティックの種類など色々なものに影響されるので、すべての音の”色”が違います

それは人間と同じで、私たちもそれぞれ自分の色を持っていて、その人の個性や性格、魅力を作り出しています

障害を持つ人たちへ音楽院への門を開いたグレニー氏

その後、グレニー氏はロンドンの王立音楽院を受験しました

しかし、それを学校側は「聴覚障害ミュージシャン”の将来性が不透明だ」という理由で願書の受理を拒みました
この学校側の対応にグレニー氏は納得できませんでした

もし断る理由が聴覚障害ということだけで、演奏技術や音楽への情熱を評価しないなら、そもそもの合格の意味を考える必要があるのではないか
そう主張していった結果、グレニー氏は試験を受けることができ、合格することができました

そして、グレニー氏の合格や主張を受けて、全英の音楽院ではどんな事情があっても願書を受理するようになりました

受験者の演奏を実際に聴き実力に基づいて合否を決めたことによって、今までは受験ができなかった面白い個性を持つ学生たちが音楽院に入り、彼らの多くは現在プロとして世界中で活躍しています

また、近年では小さい音から大きい音でも思い通りに演奏家が弾けるような音響設計を音響技師は考える必要が出てきました

そのときに、音響技師は長年「聴覚障害だから、音楽なんてわからない」と言われてきた聴覚障害者の意見を取り入れるような現代になってきました

そうやって、音楽界における聴覚障害者たちの評価は少しずつ変わってきています

音を出すことだけが音楽ではない

グレニー氏は聴衆に手を叩いて雷の音を作るように言います
自分の内で雷を聴いて、それを拍手で表すように
会場中に大きな拍手が巻き起こりました

次は雪の音を作るように言います
会場は静かに、でも皆の心には雪の情景が浮かびます
だれも雪の音を聞いたことがないので、手を叩きません

最後に雨の音です
聴衆は小さく手を叩き、雨の音を表現します
パラパラと小さく手を叩く音が会場から聞こえてきます

ここで、グレニー氏は子供たちに同じ質問をした時の話をします

子供達は「じゃあ、どう叩こう?」と席を立って、アクセサリーを使ったり体の他の部分を使って違う叩き方をしました

体全体で音楽を表現し聴いていたのです。

グレニー氏は最初のレッスンでドラムを一週間持ち帰るよう言われたときに、同じような体験をしました
ドラムを持ち帰るよう言われたグレニー氏は「スティックなしでどうすればいいんだろう?」と困惑しました

そこで、グレニー氏はこのドラムをじっくり眺め、つまみやスネアなどの構造を調べました

裏返したり、ドラムの上や周りを叩いたり、体もアクセサリーも使いました
使えるもの全て使って、彼女はアザだらけになりましたが、これは楽器を弾くのに重要な経験で、楽譜や教科書からは得られない経験でした

普通は、音楽家ではなくプレイヤーになるための基礎としてシングルストロークを学ぶものですが、当時のグレニー氏は先生の意図によって、基礎の技術を教えられることはありませんでした

しかし、グレニー氏が音大生になるとレッスンも変わり教科書に沿ってレッスンをするようになったのです

先生に「曲を弾きたい」と言っても「そのために必要だ」と返ってくるばかりでした
曲と通い合うのになぜ教科書に載ってるような練習が必要なんだろうこの練習が音楽で語ることにどう関係しているのか、とグレニー氏はいつも疑問を持っていました

音を出すことだけが音楽ではないのです

音の誕生から消滅まで体全体を通して音楽を感じてほしい

音楽家は音楽を通して語ることによって、人々に色々なことを伝えられます
そして、それがひとりひとりの聴き方を決めます

演奏する時に様々な感情を抱えて演奏しますが、それは必ずしも聞いている人に同じように感じてほしいとは思っていません

グレニー氏は最後に、こう締めくくります
次回コンサートに行く時は体を開き自分の中で響かせて、音が生まれて消えていく、その過程を意識して聴いてみてください
きっと奏者とは違う感じ方ができるでしょう

音楽をは耳で聞くのではなく、音の誕生から消滅まで体全体を通して音楽を感じてみてください

音楽は耳で聴くものではなく、体全体で感じるもの

今回のグレニー氏の講演で印象的だったのは、音楽院の障害を持つ人への対応が彼女の熱意によって変わったことでした

グレニー氏のように聴覚障害があるからといって、音楽を感じることができないわけではありません

むしろ、音楽は耳からではなく体で感じるものだと気がつくことができました

そして、中にはグレニー氏のように偉大な功績を残す音楽家もいるので、何人たりとも人の可能性を潰すことはできません

TEDの講演で少しでも、実際の演奏を聞いて見たくなった方は、ぜひ、私たちミニケストラの演奏を聴きにきてください

私たちの演奏も耳と体全体で感じていただくことで新しい音楽の『聴き方』に気がつくかもしれません

講演の全編はこちらのTED動画からご覧いただけるので、是非一度ご覧ください