TED

クラシック音楽は人を変える。ベンジャミン・ザンダーの「音楽と情熱」(The transformative power of classical music)

ベンジャミン・ザンダー

みなさんは数あるTEDの中でも有名な講演、ベンジャミン・ザンダーさんの「音楽と情熱」をご存知でしょうか?

ベンジャミン・ザンダーさんは1939年にイギリスに生まれ、指揮者としての実績だけではなく、そのリーダーシップ力で名高いコーチとして有名です

今回のベンジャミンさんの講演では、ショパンの楽曲を演奏しながらクラシック音楽の可能性を語っています

邦題は「音楽と情熱」ですが、英題は「The transformative power of classical music (クラシック音楽の人を変える力)」となっており、ザンダーさんはクラシック音楽で人を変えることができると本気で信じているようです

今回はそんな彼の心動かされるTEDでの講演内容をご紹介します

見方によって変わる考え方

1900年代にアフリカに行った靴のセールスマンの話をご存知ですか?

ある2人のセールスマンが、アフリカで靴が売れる見込みがあるかどうかを調べるためにアフリカに送り込まれたのです

彼らからマンチェスターの事務所に電報を送りました

一人は靴はだれも履いていない絶望的な状況を伝え、もう一人は誰も履いてないからこそこれからがチャンスだと伝えたのです

クラシック音楽の世界も同じような状況にあります

クラシック音楽はもう終わりだと思っている人がいる一方で、まだまだこれからだと思っている人もいます

 

人によって、物事の捉え方は変わるのです

誰もがクラシック音楽を理解し、愛することができる

ベンジャミン・ザンダー

話の途中でザンダーさんは、7歳くらいの子どものピアノの演奏方法を見せました

たどたどしく、リズムも要所によって全く違います

そして、ピアノの演奏方法によって成長過程を示していきます

 

7歳のときと成長後の演奏では、なにがちがうのか?

それは、成長するに従って音符一つ一つのアクセントが減っていき、最終的には楽句全体で1回になっていくというところです

 

次に、ザンダーさんは聴衆をいくつかグループに分けます

第1のグループは、クラシック音楽を情熱的に深く愛し、いつもクラシック音楽を聞いたり子供にも楽器を習わせるような人たちです

第2のグループは特にクラシック音楽に興味があるわけではなく、時折BGMでクラシックが流れる、そんなグループです

第3のグループは、クラシック音楽は全く聞かず、クラシックとは全く接点のない人たちです

そして最後はごく少数の、自分たちが「音痴だ」と思っている人たちです

しかし、本当に音痴なら声で人を判別することもできないので、実際には音痴の人などはいないというザンダーさん

 

ザンダーさんはグループ分けした上で、クラシック音楽を愛して情熱を傾けている人たちと、クラシックに全く興味がない人たちの距離感はあるかもしれないが、会場にいる全ての人たちがクラシック音楽を愛し理解するようにせずにはいられなくなると言うのです

ショパンから学ぶひとつながりの音楽

ベンジャミン・ザンダー

彼はそのための実験をこの講演で行いました

 

まず、ザンダーさんはショパンの有名な前奏曲を弾き始めます

ショパンの曲は悲しみの「シ」と「ド」で基本的に構成されています

そこからラ、ソ、ファと下りていき、「ミ」だと思うところを行かず、また戻る…といったような、音階になっているのです

 

そんなショパンの曲をザンダーさんは、誰かが長い一日を終えて家に帰ったとき、車のエンジンを切って「ああ、帰り着いた」と言うときと似ていると言います

ザンダーさんが言うには、この説明を聞くことで、シからミに行くのに途中の一つ一つの音について考えるのをやめ、長い「シ」から「ミ」への流れを感じるようになるというのです

クラシック音楽はみんなの心を動かすことができる

ザンダーさんは、音階の説明や流れを説明した後に、ショパンの曲をもう一度通して演奏しました

そして、見事にその演奏を聞いた職も興味もちがう1600人が、ザンダーさんのショパンの曲を聴いて心を動かされたのです

 

ザンダーさんが、10年前の紛争の時期にアイルランドでカトリックとプロテスタントの子どもたちと対立解決の仕事をした時のこと

ザンダーさんは現地のストリートキッズに対しても、今回の講演と同じように演奏をしました

その時、男の子に言われた言葉があります。

「俺はクラシック音楽を聞いたことはなかったんだけど、あんたのショパンの曲を聞いてる時、弟のことを思い出した

弟が死んだ時は涙がでなかったのに、あんたのピアノを聞いたら自然と涙がでていて、弟のために泣くのはすごくいいことだって思ったんだ」

そう言ったのです

その瞬間、ザンダーさんはクラシック音楽は万人のものだと確信したそうです

クラシックの専門家たちは、クラシック音楽を好きな3パーセントの人たちを4パーセントに増やせれば満足で、その1パーセントをどのように増やしたらいいかと悩んでいます

 

しかし、ザンダーさんは

クラシック音楽はみんな大好きなんだ!その魅力に気づいていないだけなんだ

と思っているのです

同じ1パーセントを増やすことでも、2つの考え方で与える印象が違うのは冒頭のセールスマンの話からも明確です

指揮者の本当の価値

ベンジャミン・ザンダー

ザンダーさんは45歳の時「オーケストラの指揮者は音を出していない」ということに気づき始めたといいます

ザンダーさんは20年間指揮者をしていて、音を出していない指揮者の役目は何だろうとずっと悩んでいたのです

 

しかし、指揮者は自分の仕事が他人の可能性を目覚めさせる役割ではないのかと考えた末にわかりました

ザンダーさん自身が本当に指揮者の役目を全うできているのかを知るため、奏者たちの眼を見ました

 

もし彼らの眼が輝いていなければ自分に一度問いてみなければなりません

「演奏家の眼が輝いていなかったら、自分はいったい何なんだ? 」

 

相手が子どもでも同じことが言えます

自分の子どもの眼が輝いていなかったら、自分はいったい何の役割なのだろうか

そう考えるようになると、世界の見方が一変するのです

 

ザンダーさん曰く「成功」とは財産や権力のことではなく、輝く眸がいくつ自分の周りにあるかだと最後に締めくくりました

話す言葉は変えることができる

最後に、ザンダーさんはアウシュビッツで生き残った女性の話で講演を締めます

 

彼女は15歳の時に8歳の弟と一緒にアウシュビッツ収容所に連れて行かれました

そして彼女は弟と列車でアウシュビッツ収容所に向かっている途中で弟の靴がなくなっていることに気づき

「なんてバカなの、自分のこともちゃんと できないなんて!」

と言ったそうなんです

これはなんの取り留めもない言葉でしたが、不幸なことに、それが彼女が弟に言った最後の言葉になってしまったのです

 

そのことから、彼女はアウシュビッツを出た時に誓いを立てました

「その人にとって最後の言葉になったとしたら耐えられないようなことを、もう絶対に言わない」

私たちはそれができるでしょうか?

クラシック音楽は人を変える力を持つ

ベンジャミン・ザンダー

20分の動画でしたが、ザンダーさんのユーモア溢れるトークであっという間に見終えてしまいました

彼の音楽に対する情熱はクラシック音楽を好きな人も、興味がない人も関係なく心を引きつけクラシック音楽の世界に一歩引き寄せてくれます

そして、その先にあるクラシック音楽の本質、例えば今回のショパンのような長いひとつながりの音楽は人生にも通じることに気づくことで、クラシック音楽が好きになるかもしれません

ザンダーさんのTEDでの講演を通して、そう思った人も多いのではないでしょうか

 

人類がみなクラシック音楽を愛することができる、そう信じているザンダーさんの活動をこれからも応援していきたくなるような講演でした

 

そして、ミニケストラも、一人でも多くの人がクラシック音楽を好きになるような体験を提供していきます

 

講演の全編はこちらのTED動画からご覧いただけるので、是非一度ご覧ください